2023年度 第59代理事長所信

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はじめに

2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症による世界的流行によって、今まで当たり前だった日常は消え去り、社会の様相も一変してしまいました。しかし、このコロナ禍も丸3年を経過し、新しい生活様式を取り入れながら、社会経済活動もしっかりと進めていく“withコロナ”から“afterコロナ”へと時代は段階的に移行しつつあります。我々の活動・運動においても、この期間、様々な制約の中で、一定の柔軟性を取り入れた組織運営をしながら、積極的な運動を推進することで、着実に組織力を上げていくことができたのではないでしょうか。

本年度の基本理念「It Gets Better!」とは、日本語に直訳するならば、「(未来は)きっと良くなる!」「より良い未来は存在する!」となります。これは、米国の作家でメディア評論家のDan Savageが、性的マイノリティーを理由にいじめを受けたり、性的マイノリティーではないかと同級生に疑われた末に自殺をする十代の青少年が相次いだことを受けて、2010年9月に立ち上げたYouTubeチャンネルに端を発した社会運動に着想を得ています。この社会運動では、いじめを受けている性的マイノリティーの青少年に対して、いま置かれている環境というものは永続的なものではなく、その先にはきっとより良い未来がある(”It Gets Better”)というメッセージを成人となった性的マイノリティーの人々から集め、発信するというものでした。この運動は大きな拡がりを持って発展していき、2015年には、同性婚の権利を全国的に保障した米国最高裁判所の革命的判決にも繋がっていきました。

私は、この言葉の持つ極めてシンプルでポジティブなメッセージ性に惹かれます。我々も、地域の希望となるような運動を、この庄原の地で今年も展開していきたいと思っています。それらの種が、芽吹き、成長し、花となるには一年という期間ではとても足りないかもしれません。その時世に合った課題を抽出し、冷静に分析し、事業として構築・実施し、さらにそれを次の何かへと繋げていく。この“正”のスパイラルを描いていくためには、時には精神的・肉体的に厳しい局面もやってくるでしょう。その時の合言葉として、「It Gets Better!」と叫びたいのです。世界を変えることは容易ではありませんが、そもそも世界を変えることを忍耐強く信じ続けなければ、世界を変えることなどできません。私達の運動の先には、この地域のより良い未来がきっと待っていると信じ、動き続けようではありませんか。

次へのステップアップに向けた会員拡大

庄原青年会議所は、私が入会した2017年以降、20名前後の会員数で運動を展開してまいりました。2023年度においても、その傾向は変わっておりません。我々、青年会議所は40歳までが会員資格を有する団体という年齢制限を抱えながら、毎年、組織の新陳代謝を繰り返し、運動を継続しています。それはつまり、共に活動する同志を毎年継続的に迎え続けることができなければ、その会員数は自ずと減少することを意味します。そして、会員数の減少は、会員個々の負担の増大とそれに伴う様々な負の連鎖に直結していきます。現状の20名前後という会員数は、庄原青年会議所としての運動の質や規模を維持できる最小公倍数の人数であり、これを下回ってしまうと、それらは加速度的に低下していってしまうと危惧しています。本年度も4名の卒業生がいる現状を踏まえても、また、庄原青年会議所としての運動の質や規模を、今後、もう一段階ステップアップしていくためにも、会員拡大は避けては通れない最重要課題です。

それには、近年の会員拡大の成功例を参考にしながら、できるだけ若い世代の会員が5年後10年後の庄原青年会議所を思い描き、高い意識を持って積極的に動いてもらう必要があります。会員拡大というものを、組織を維持するための活動と捉えるのではなく、むしろ直結的に能動的市民を発掘・育成するための活動と捉えていきましょう。会員全員が、今一度、当事者意識を持ちながら、年間を通して、10名増員を必達目標に取り組んでまいりましょう。

人財育成による地域への還元

会員拡大とともに、組織の運営・維持と、運動の質や規模の向上を考える上で大事になるのは、人財の育成であることは間違いありません。それは、青年経済人としての視点においても、庄原青年会議所において活動する一会員としての視点においても同様です。一人ひとりの会員が、それぞれのフィールドで、魅力ある人財として活躍することは、市民の方々に庄原青年会議所を知っていただく上でも大きな広告効果がありますし、会員拡大においても非常に有効になるはずです。

また、青年会議所での活動を通して、事業構築における原点となる議案の質を追求することは勿論のことながら、ロバート議事法を中核とした民主的な議事進行方法およびその精神を学び、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Action)やOODAループ(Observe・Orient・Decide・Act)といった思考法を体得していくことは、青年会議所という組織体に限らず、会社等の組織運営上の基礎的素養にもなります。数と質の両面において、優れた会員を育成し、それを事業として、人財として、地域に還元していけるような組織にしてまいりましょう。

継続的な対外的広報の確立

「人々に信頼されるためには、人々の目に触れる存在でなければならない」とは、2022年9月に亡くなられたイギリスのウィンザー朝第4代女王、エリザベス2世の言葉ですが、我々がいかに素晴らしい事業を構築・展開し、いかに魅力的な会員を抱えた団体であっても、それが地域や市民の間で認知されていなければ、そこからさらなる運動に伝播し、繋がりを得ていくことはできません。そのためには、対外における広報活動とブランド構築が非常に重要であることは言うまでもありません。我々は今までも、ホームページやSNS、チラシなどで庄原青年会議所の活動やその魅力を伝える努力をしてきましたが、より効果的に、伝えたい情報をターゲットとしている層に届けていくことに対して、もっと先鋭的かつ意識的になる必要があります。そもそも、我々はどのような方たちにその運動・活動を知っていただきたいのか、どのような方たちにその運動・活動の趣旨に賛同してもらい、伝播していただきたいのか。これらを明確にイメージするところまで立ち返り、種々の広報ツールの中から最適なものを取捨選択していかなければなりません。

また、ブランド構築の観点では、継続的な広報活動による地道な積み重ねこそが、もっとも効果的な手段ではないでしょうか。2022年度にブランディング・プロモーション推進委員会が手掛けたJCマガジン「Light」は、庄原青年会議所OBは勿論のことながら、多方面から反響を頂戴した事業でした。このような素晴らしい取組みは、継続してこそ意味があります。継続しているからこそ価値が生まれている広報の手法は、広島県内の他の青年会議所を見ても、三原青年会議所のやっさもっさ新聞(および子どもやっさもっさ新聞)、尾道青年会議所のJCライフなど、意図しているターゲット層や目的は違えど、存在しています。我々も、前年度の取り組みを足がかりに、このような広報活動を継続的に展開できる取組みと仕組みづくりを検討していき、庄原青年会議所というブランドを、着実に構築していきましょう。

郷土を愛し、能動的思考ができる次世代の育成

「子どもは無限の可能性を持っている」と昔からよく言われます。しかし、今の日本社会は、本質的に子どもが持っている(であろう)その可能性をうまく引き出すことができているのでしょうか。2021年の流行語大賞にもノミネートされた「親ガチャ」というインターネットスラングは皆さんも聞いたことがあると思います。この言葉は、環境要因(育ち)だけでなく遺伝的要因(生まれ)も内包し、そういったメインの基盤によって人生が大きく左右されてしまう(決まってしまう)というニュアンスで、「生まれてくる子供は親を選べない」ことを、スマホゲームの「ガチャ」 に例えています。私は、この言葉を初めて聞いた時に、今の日本社会を覆っている閉塞感は、ついにここまであからさまに言語として表面化するようになったのか、と感じました。実際、日本世論調査会が2022年に実施した全国郵送世論調査では、親の収入などの境遇で子どもの人生が決まると思う人が、「どちらかといえば」を含めると7割を超え、さらには、境遇の違いによって生まれた格差が今後、固定化されると思う人も約6割に達しています。これは、国民の9割が自らを「中流」と捉えている「1億総中流社会」の日本(内閣府による2015年度の「国民生活に関する世論調査」より)において、真面目に働けば人並みの収入を得られ、人並みの暮らしができるという日本社会の方程式が過去のものになっていることを示唆しています。

我々の次世代を担う、今を生きる子ども達は、そういった親の背中や社会の空気感を敏感に感じ取りながら、それぞれ、自分たちの未来を見据えています。そんな彼ら彼女らに、我々は何を提示することができるでしょうか。「教育」は、本質的な意味で、その最適かつ唯一の解だと思います。「経済格差」≒「教育格差」にせず、しかも「地域格差」≒「教育格差」にもしないために、我々ができることを探索していかなければなりません。そこには、二つのヒントがあると私は考えます。

一つ目のヒントは、消費と同じ要領で、教育に対してコストパフォーマンスを求めがちな現代の効率史上主義に対するアンチテーゼです。いつの時代も、最先端の学術研究では、問いはあっても答えはありません(場合によっては、その問いが正しいかすら、わかりません)。そもそも答えを地球上の誰も知らないからです。自ら問いを立て、その問いに対して、未開の地を切り拓くかのように挑んでいくのが、「考える」ということです。結果や答えを短絡的に求める「教育」ではなく、プロセスに重きを置き、自ら「考える」ことの楽しさに気づかせる「教育」に関する体験機会を、様々な切り口から、先進的テクノロジーも取り込みながら、展開していきましょう。

もう一つのヒントは、ここ庄原でしか体験できない「郷土」に対する「教育」だと思います。地方で生まれ育つということが、教育的観点においても、都会で生まれ育つこととは違った意味で強みとなるものが数多くあると思います。また、庄原という地域の有する魅力を知らないままに、一元的にふるさとを「田舎」という言葉で括り、生まれた町・育った町に対する愛情や誇りを持たずに成長することほど、町にとって大きな損失はありません。住み暮らすこの庄原を知り、愛情と誇りを持ってもらって、初めてその町の将来を担っていく真の人財が育つのではないでしょうか。そこを気付かせていくことは、文部科学省の学習指導要領にがんじがらめにされている現状の義務教育では限界があることは明白です。ふるさと庄原に残ること・戻ることを、保守的ではなく、革新的で前向きに捉えてもらうために、その種を蒔いていきましょう。

新機軸の地域活性化の創出と地域特性に応じた社会課題解決

地域活性化ということが言われて久しいですが、多くの場合、それはどうやって地域において経済を回すかという話になりがちではないでしょうか。もし、お金が回って、人が多くなり、ヒト・モノ・カネが揃うことが活性化だとするのであれば、そのモデルは結局のところ、「東京」のような都市に行き着いてしまいます。これから、さらなる人口急減と超高齢化といった大きな社会課題が東京も地方も関係なく待ち受けている日本において、地方が目指すべきモデルが「東京」であることは、その時点で実現可能性が極めて低いことを意味すると思います。そうであるとするならば、それは庄原を含めた「地方」にフィットするものの考え方に変えていかなければいけません。「善」と「悪」のような単純な二項対立でないのが、現実の価値軸であり、「東京」と「地方」の関係性においても同様に二項対立で考えるのではなく、相互に支え合いつつ、それぞれが持続的発展を遂げ、日本全体の長期的な成長を担っていく地域の一つとして捉えるべきだと思います。

2011年3月の東日本大震災以降、我々、日本人は都市(生活)の脆さに気付き、さらに、2020年から断続的に続く新型コロナウイルス感染症に伴うコロナ禍では、社会構造自体が音を立ててガラリと変わる体験を現在形でもしています。これまでであれば当然と捉えられてきたものの見方や考え方が劇的に変化する、いわゆる「パラダイムシフト」をあらゆる場面で迎えているのが現代の日本です。そういった中で、人々は、「よい」生き方とは何か、について、再考する場面に直面しているように思います。グラフのX軸とY軸があって、それぞれの軸が「お金」と「時間」であるとすると、お金は多い方が良いし、時間は早い方が効率的で良いというのが、これまでの「右肩上がりの社会」における基本的な考え方でした。確かに、国による経済政策の目標は、現時点ではまだ経済成長の実現にあります。しかし、実際のところ、1990年代初頭から、賃金の下落・伸び悩みや、失業の増加、実体経済の低迷といった、経済の長期停滞が続いている日本では、「失われた30年」とも言われるように、成長自体の難しさが明らかになり、「右肩上がりの社会」を目指しながらも平行線の状態を打破できない状況が続いています。そういった中で、「働いているか、お金を使っていると、居場所がある」という側面ばかりが先鋭化され、お金儲けや経済活動、そして、働いている以外の時間では、消費者としてのハイライフ・ハイスタイルを表面上は実践することで、自分が何者かということを規定していく社会というのは、果たして、地方にフィットしているものなのでしょうか。わかりやすさを求めがちな現代は、一方で、多様で複雑化している側面も併せ持ちます。何かによって幸せになろうとするのではなく、この世界(地域)で生きていく、と腹を決めて生きていく。そこで生きてゆかなければいけない、ということを受け入れて、その上でいかに良い人生を送るかという覚悟を決めていく。この点においては、都市も地方も、場所は関係ありません。地方にはその第三軸・第四軸に据えるべきものが圧倒的に豊富にあると思います。

これまでであれば、「これから世の中がどう動いていくか」を考え、動き出していけばどうにかなっていた時代でしたが、近年は「これから世の中にどうなってほしいか」を考えて、動き出すことがより求められる時代に移行しつつあります。情報伝達速度が画期的に早くなった現代においては、都市を中心に形成された時代の空気感を読むのではなく、都市も地方も並行かつ連携しながら、それぞれに適合した時代の空気感を作っていく段階に移行してきたと言えるのかもしれません。自分たちの未来を描くのは、「誰か」ではなく、あくまで「自分たち」です。つまり、今ほど、当事者意識を持って行動することが求められる時代はありません。地域の抱える社会課題を、その地域の特性に応じて考えていく。これは、言うは易し、行うは難しですが、我々、庄原青年会議所では、これまでも多くの社会系事業において、そういった視点に立って事業を構築してきました。これから先の我々の課題は、そういったものをどれだけ多くの人と繋がり、大きなムーブメントに変えていくことができるか、だと思います。この庄原という地域に、また新たな一石を投じる社会系事業を、失敗を恐れずに展開してまいりましょう。

組織の中長期の方向性を指し示す羅針盤の策定

さて、ここまで断片的に各分野における方向性を中心に語ってきましたが、その全てを貫くような中長期ビジョンというものが、庄原青年会議所には未だありません。青年会議所には、各事業年度単位で理事長を初めとした全ての人事が切り替わるという特殊な性質があります。これは対内の人財育成面では非常に有効に働きますが、対外的に我々の運動を市民の方々に知っていただき、外部団体と連携を築いていく上では必ずしも効果的とは言い切れません。庄原青年会議所はこういうことを目指して実際に活動してきた団体で、今後、地域社会の中でこうありたいのだということを、多くの人にわかりやすく説明でき、外部に対して我々のポジションを明確にしていく必要があります。対内的には、メンバーをより統合し、一つの方向に向かって協力していける関係にしていく必要もあります。そのためには、今の我々の持っている目線を、「一年」という単位ではなく、もう少し先、「五年、十年」といった単位で考えていくことが有効だと思います。

近年では、2018年の社会福祉法人庄原市社会福祉協議会(以下、庄原社協と略)との間で締結した災害時における被災地支援に関する連携協定、2021年の同じく庄原社協や庄原市の各関係課、広島ひきこもり支援センター等との間で構築・継続している庄原市ひきこもり支援ネットワーク、2022年の西城町の各支所・団体等との間で構築した西城みらいラボなど、年度毎に単発でありながらも持続的に社会にインパクトを与え続けることが可能な事業を、庄原青年会議所では展開しています。しかし、これらはあくまで各年度の委員長を中心とした熱い想いが理事会を通して昇華した結果であり、それぞれが意図的かつ有機的に連携しているものではありません。

今でも、これだけ素晴らしい事業を創出できているこの庄原青年会議所という組織が、ここから先、さらに効果的で持続可能な運動主体として活動していくためにも、次の五年、十年を指し示す中長期ビジョンの策定に向けた活動に着手してまいりましょう。

おわりに

この2023年度においても尚、我々が庄原青年会議所として様々な運動を展開できているのは、ひとえに先輩諸氏がその時代毎の課題に対して真摯に向き合い、精一杯に考え、汗を流してきた一つ一つの積み重ねの結果です。そういった礎があって、今の我々があります。そして、その礎はこれから先も、より堅固でしなやかに育んでいかなければなりません。

私は、2016年の年末に家族とともにこの町に東京から移住し、2017年の年始に、何もわからないままに、この庄原青年会議所の仲間に入れていただきました。そこから丸6年が経過し、この学び舎で、多くの方と出会い、ご指導を賜りました。この組織での学びは、OJT(On-The-Job Training)でもOFF-JT(Off-The-Job Training)でもなく、まぎれもなく唯一無二のものです。できない理由を探すのではなく、できる方法を考えるこの組織では、自分の能力に蓋をすることは許されません。本年度も、各委員会が起案・構築する事業以外にも、第41回庄原よいとこ祭への積極的な関与や、第52回日本青年会議所中国地区球技大会の主管など、我々が自身の能力を最大限に発揮し、さらに高みに連れていってくれるであろう舞台は整っています。青年会議所の様々な運動・活動を通して、時に、自分にはない才能に嫉妬し、時に、同様の思考を持つ同志に刺激を受け、時に、自分自身の未熟さや力の無さに打ちひしがれましょう。そういった日々の中で醸成される仲間との関係性の濃厚さは、これが、「かけがえのない同志」というものなのか、と感じることができるはずです。私は、大人になって、友達や同志など、できるはずがないと思っていました。しかし、それは間違っていました。

この一年で、私は、この学び舎で、この同志達と、何を得て、何を学ぶことができるでしょうか。それを楽しみにしながら、一年間邁進していきたいと思います。

「努力は運を支配する」 by 宿澤広朗

「万物は流転する」 by ヘラクレイトス

一般社団法人 庄原青年会議所2023年度 理事長
西田 輝之